Ghost Apple 26

「いるの?」
「………ま、せん。」
「ん?」
「いま、せん。名前知ってる人なら、何人かいるけど…学校で話せる人なんか先生以外はいないし、病院も、話せるとしたら、…」
「歳の離れた人たちばかり。」
「………。」
 両手を重ね握る雄介は何を思っていたのか。何を考えていたのか。
「寂しいんだろ、それが。」
「…寂しいです。」
「俺も、寂しい。」
「………え、」
 先ほどの『見たままじゃ、寂しそうかなって。』という雄介の言葉を肯定するように、言う。どこか気恥ずかしいから、視線を合わせたりはしない。

「寂しい、から…会いに行きたい。ダメか?」
「…………。」

 唖然とするような雄介の顔にもまた、当たり前だという感情を出していく。寂しいから会いに行きたいなんて言う相手、間違ってる。そう思うが、でも。

 放任主義、とは物は言い様。仕事で忙しいからって親に構ってもらえなくて、寂しくないわけがない。学校には行かせてもらって、きちんとした勉学もさせてもらっていたけれど、それでも、親という大きな存在が少しだけ欠落した京太郎は、やはりどこか寂しかったのだ。
 自然と出て来た疑問を口にするほど他人に興味を持つなんて、京太郎にはほとんどなかった。家だって学校だって、口にしてもいいかするべきか、そんなことを考えている内に時が過ぎていくばかり。
 ―――第一印象から寂しそうだった彼であれば、
 そんなことをぼうっと考えたのだ。

「お前は、親はいるけど、友達はいない。」
「…そうですね。」
「俺は、友達は…いなくもないけど、親はいない。」
「………はい。」
 京太郎が言わんとしたことがわかったのか、それとも、雄介にあたった現実が、思ったよりも人に言われたくなかったことなのか。すぐに掻き消えてしまいそうな声の返事に少しの期待を寄せて、京太郎は言葉を続けた。
「言葉変えるだけで全然違うけどさ。…分かり合えるとは思えねーか? 俺ら。」
「………。」
 雄介に会わせて、小さな声で。二人にしかわからないような、小さな声で。囁いた京太郎の言葉に、雄介は、しばらく何の反応もせず………
 そして、長い時間を置いてから、ゆっくりと頷いた。
「…はは。」
 そんな雄介の戸惑ったような頷きに、自然と小さな笑いをこぼす。しかし雄介はそんな京太郎は気にする暇もないのか、どこか焦ったような…そんな顔で、京太郎のほうへと体を寄せた。
「絶対、絶対ですよ?」
「ん?」
「絶対、僕を連れ出してください。」
「あー。かっこいい王子様じゃなくて悪いけど。」
「僕は男の子ですから、かっこいい王子様に迎えられても逆に困ります。」
「それもそか。」
「…絶対、来てくださいね。」
「あぁ。」
 絶対行くから。白いベッドに横たわるお前に、どうしようか。漫画でも持っていこうか?ゲーム?音楽でもいいかもしれないな。ぐるぐるといろんなことを考えるが、口にはしない。今日初めての京太郎にこんなことを言うなんて、本当に打ち解ける人間がいなかったんだろうな、そう考えればこんな修学旅行中に色々考えるよりも、時間をかけていったほうが雄介も嬉しいだろう。
 たかだか仕方が無いと思えるような寂しさに意気投合した二人は、二人一緒に、それでも、どこか寂しそうに、笑い合った。



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