Ghost Apple another4

「…英介。」
「なーに。」
「あいつは、どう思ってたか知らないけど。俺は、雄介が死んだとき、お前に対して申し訳なさでいっぱいだったよ。」
「………。」
「雄介のことで頭がいっぱいで、その日だって仕事が終わったらまた雄介のとこに行かなきゃなぁって、言ってさ。」
「…うん。」
「そしたら、あの事件を聞いて。」
「お気の毒、だったね。」
「でも、雄介がいなくなってから、お前のこと何も考えてなかったことに気づいたんだ。」
「………。」
 同じ歳の同じ子供だっていうのに、雄介のことばかり考えて、雄介で頭がいっぱいだった。あいつは病弱だったからって、英介もきっと理解してくれてるって。そう思ってほったらかしに、ばあちゃんちに行ってもらっててさ。寂しくないわけないよな、ばあちゃんに構われてたって、俺たちに見向きもされてなけりゃ。
「……悪かったよ。」
「別にそんな言葉いらない。」
「…英介。」
「そうやって気遣うようなこと言ったって、結局10年ちょっとは雄介のことしか考えてなかったのは変わらないでしょ。それでもって、そのまま僕を嫌いになったあの人がどうかしたりはしないでしょ。」
「…あいつのことも、本当に悪かった。」
 そんな、父さんに。
「いらねぇよそんな言葉!!」
 背を向けて、叫ぶ。いつだって殺していた性格を、久しぶりに出せた気がした。
「俺が何言ったって父さんも母さんも結局雄介のところに行ってただろ!」
「…悪かった。」
「父さんが謝ったって、あの人にとって俺は雄介を殺したクソ野郎ってだけなんだよ! それだけは何も変わらない!」
「…英介。」
「母さんにとって俺は雄介を殺したクソ野郎だし、父さんにとって俺はほったらかしにし続けて上手く接することが出来ない面倒臭い息子だし、雄介にとって俺は迷惑な羨望向けてくる大嫌いな兄貴だった! 父さんが謝ったって、母さんは最後まで、雄介は、最期まで、」
 そこで、言葉を詰まらせる。
「………英介。」
「ごめん。もう寝るね。」
「…おい、英介。」
「今度、墓参りにでも行こうよ。雄介のさ。きっと寂しがってるから。」
 震える声を隠そうとしたって、きっと父である目の前の彼には伝わってしまっている。そんなことはわかっていても、顔を向けることも、声の震えを隠そうとすることも、できるはずがなかった。
「じゃあ、おやすみ。」
「………。」
 ばたん、と。リビングに直接繋がる自室の扉を閉める。



 言ってはならないことを、言ってしまった気がする。自分に接してくれようとしている、父さんに向かって。僕はいつだってそうだ、言ってはならないことを、言葉にしてしまってから気づく。もっと雄介みたいに控えめで、大人しくて、…言葉を考えていれば、こんなこともないんだろうに。
 でも、父さんと母さんは別にいい。…母さんは、もうどうすることもできないと思うけれど、でも、まだ可能性がないわけじゃない。
 だって、生きてるから。
 雄介は死んでしまった。声も何も届かないところへ一人旅立ってしまった。最後なんかとんでもなくくだらない話で終わってしまって、何もかも、謝るどころか気づく前に別れることになってしまった。
 叶わないのは知っているけれど。でも、どうしても思ってしまう。
 この後悔が、少しでも雄介に届きますように。
 なんて、こと。

 きっと京太郎くんが死ぬほど繰り返していた言葉。気持ちは大きく違うんだろうけど、何もかも、自分すらも忘れたがる程に大きな気持ちに振り回されるわけじゃないんだけど。
「…ごめん、雄介………」


 自室で一人、涙ながらにこぼした声は、きっと誰にも、届かない。



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