Ghost Apple 27

 しばらくして、そんな恥ずかしい空気をごまかすように、雄介はそっと京太郎の持つリュックへと視線を落とす。
「…京太郎くん。」
「ん?」
「お菓子食べますか。多分、ポケットのところにラムネが入ってたと思うんですけど。」
 先日兄が入れていました。そんな雄介の硬い物言いに苦笑いしつつ、ポケットを探してみる。「そっちです」という日暮の指差す方向へと見てみれば、確かに外側につけられたポケットが膨らんでいた。普通こういう場所にはティッシュなんかを入れるのではなかろうか。
「隠れて食べるつもりだったんでしょうね。ご飯の後だって、先生に隠れて必死で食べてましたから。」
「もしかしてそれでトイレ行けなかったとか言うんじゃないだろうな。」
「さあ、どうでしょう。」
 呆れたような雄介の顔は確定だろうな。そう考えながらポケットから中身を取り出す。
「ん、ほれ。」
 入っていたラムネを手渡せば、ぴり、とラムネのビニールをはがしていく。その顔はやはり無表情で、でも先ほどとは全く違う印象を残してくれて、なんだか不思議な新鮮味を感じながら、またも荷物を抱えなおした。
 そんなところで、がたん、とバスが揺れる。
「あ、」
 丁度ラムネの入ったプラスチックの容器を開こうとした雄介は、中のラムネをぶちまけてしまった。先ほどまで無表情だったくせに、途端に残念そうな顔をし始める。
「…そんな顔しなくても。」
 つい出た手は雄介の頭を撫でる。それにもむっとした表情をして、ばらまかれたラムネを一粒一粒手にとっていった。近くにいる人間が訝しげにこちらを見るが、頼み込むように頭を下げながら人差し指を口にあてる。「黙っててくれよな」と小声で言うが、届いているかどうかは、よくわからないが。
 下に落ちた粒まで一つ一つとろうとしている雄介を見るに、よっぽど散らばったラムネが惜しかったのか。小さく唸り声を上げながら他にないかと視線をあっちこっちさせる雄介に釣られるように、京太郎もどこかにないかと白い粒を探し始める。
「あ、雄介。」
「英介です。」
「英介。お前の椅子んとこ落ちてる。」
 わざわざ入れてくれた訂正に従いつつ指をさす。
「どこですか。」
「そこ、そこ。」
 えっと、えっと、と首を色んなところへ回す雄介に、こそあど言葉だけでは通じないと思い。
「ちょ、立って。」
「あ、えっと、はい。」
 同年代だろうが男だろうが、無闇に触れられるのは嫌がるかと思っての配慮だった。
 京太郎の言葉は、そんな考えばかりだった。
 悪いことにならないように。悪い思いをしないように。そんな考えだけだった。
 掴み取った白い粒を雄介のほうに向けて、少し笑って、口に含む。「秘密な。」と小声で言って、また膝からずり落ちかけた英介の荷物を掴んだ。



←前 次→

戻る
inserted by FC2 system