Ghost Apple 39

 日暮っていう、双子の兄弟がいた。
 兄は、元気で活発で、絵に描いたようなわんぱく坊主。外で走り回って泥だらけになるのが大好きで、よく教師の頭を抱えさせていた。
 弟は、おしとやかで控えめで。まるで女の子のような大人しさ。兄と対照的な、聞き分けのいい男の子。
 それだけだったら、本当に、それだけだったらよかったのになぁ。
 弟は体が弱かった。十まで生きるか。五つまで生きるか。いや、三つまで。医者の放った言葉は家族の、特に両親の頭を悩ませたのは言うまでもない。必死に息をしようとする小さな命はどうだろう、普通の人間の何十分の一を生きるのにも苦労する体だった。

 だったら死ね、なんて言う親がこの世に存在するだろうか?

 両親は、息をさせようと、長引かせようと、せめて自分達と笑い合える時間を出来るだけ多くと、とにかく色んなところに頭を下げ、歩き回り、働いていた。息子に笑顔を。その一心で。それだけで。
 おかげで、息子は安定して10の年月を重ねることができた。両親の、おかげで。
 もしこれが一人っ子であれば、美談だったかもしれない。
 残念なことに、体の弱さで両親からの愛を一身に受けた弟と裏腹に、兄はほとんど祖父母の家へと預けられる生活が続いていた。
 兄は恨んだ。両親を独り占めする弟を。
 もちろんそれは、小さな男の子が感じた寂しさの裏返し。隣接すれども別の物。歳を重ねれば消えていく感情。
 実際、消えていった。恨みなんてない。擦り返って出て来たのは哀れみだ。10年もベッドに縛り付けられて過ごした、彼への哀れみ。同情。そして同時に来る『自分でなくてよかった』という非情。それは決して、表に出すことはなかったけれど。
 しかし真に残念ながら、恨みと哀れみが摩り替わる前に、弟はあの世へと連れて行かれた。



 兄の17年の世界で、恨みは哀れみへと摩り替わった。

 弟の10年しかない世界は、恨みは恨みのまま、恨み返して、世界を完結させた。



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