Ghost Apple 40

「京太郎くんが嫌いです。」
「だろうな。」
「嫌い。」
「俺もお前の立場だったら、俺が嫌いだったよ。」
「嫌いです。」
「うん。」
 なるほど、言いたかったのはこれのことか。すとんと納得すれば、先ほどのような兄貴面で、雄介を見つめる。その視線の先の雄介は、相変わらず俯いて、蹲っていたけれど。
「兄さんが嫌いでした。死んだって手に入らなかったものに囲まれて生きる、兄さんが大嫌いでした。」
「うん。」
「だから、京太郎くんも嫌いです。」

 答えは知っている気がする。
「兄さんと同じように、死んだって手に入らなかったものに囲まれて生きていた、京太郎くんが嫌いです。」

 嫌い嫌いのオンパレード。好きを繰り返されれば気持ちが薄れたように見えるとどこかで聞いたのに、嫌いは繰り返されれば思いが強まったように思えてくる。不思議なものだ。
 心底恨めしそうにこちらを見る雄介の目は、涙が溢れてしまっている。そんなに泣いたら目が溶けちまうんじゃねーのか。そんな言葉は口の中だけで留めて、腕を伸ばして頭を撫でる。
 つい出た右腕は、痛みもしなければ、動作に違和も感じない。
 偏頭痛は来ない。
「だから、君も責めていいんですよ。僕のせいで怪我をしたんだって、責めていいんです。」
「無理だって。お前が俺の事嫌いでも、俺はお前を責められないよ。」
「責めていいんですよ。」
「むーり。」
 駄々をこねるように繰り返す雄介はきっと、後悔の念に追われ続けているのだろう。京太郎もそうだったから、心境はよくわかる。でも、もう遅い。
「なぁ、お前がそうやって泣くのは、俺が初めて?」
 また、やってしまったんだ。
 雄介の心の叫びはしっかりと京太郎に届く。だからこそ言った質問の意味は通じると思った。だからこそ質問の意味が通じてしまった。
 俯いて、蹲ったまま。雄介は、かすかに首を振る。
「ごめんなさいって泣くのは、俺が何人目?」
「………わかりません。」
 わかりませんが、
「でも、多分、……20人目か、そのつぎくらい。」
「わかってんじゃん。」
「………。」



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