Ghost Apple 42

「寂しかったよ。」
「羨ましいですね。」
「だろ。でもやっぱ、どっか欠けてた。虚ろだった。」
「殺してやりたいです。」
 物騒な言葉遣いに、少しだけ傷つく。でもいい。俺は傷ついていたほうがいい。
「だって、お前がいなかったんだもん。」
 こんなに何年も、お前に寂しい思いをさせていたんだから。だから。
「………君、は。」
「どう、少しは王子様っぽい?」
「そんなに僕の王子様でいたいんですか。」
「王子様っていうか、ヒーロー。」
「…なれませんよ、京太郎くんは。」
「だろうな。こんな目つきの悪い不恰好なヒーロー、俺も願い下げ。」
 冗談めいたように笑うが、口にした言葉は冗談であってほしくない。こんなヒーローはいやだけど、やっぱり、雄介のヒーローでいたかった。英雄願望じゃなくて、そうじゃなくて。一人ベッドに縛り付けられた雄介の窓口にでもなれればよかった。
 少ししか話さない間に、生と死なんていう埋められない差が自分達の間にできてしまったせいかもしれないけれど。あんな別れ方をしてしまったから、こんなにも彼に近づきたいと考えるのかもしれないけれど。
「君は、動じませんね。」
「どうだろう。結構動揺してるかもしんねぇ。」
「わかってるんでしょう。」
「わかってるよ。」
「でも、逃げないんですか。」
「逃げる理由がないからな。」


「君はこれから、いなくなるのに。」
 これから、行方不明になってしまうのに。



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