Ghost Apple 45

「………。」
 思わず、黙り込む。さっきも考えた。自分には友達がいる。上っ面だけの関係だろうがなんだろうが、見て、話せて、クラスメイトなんかの肩書きで関われる人間がいた。たとえどれだけ少なくても、それは0じゃない。
「途端に、ついさっきまで笑いあってた人が憎らしくなった。僕が一人孤独で待ってる間、この人は、この人はって考えると、」
 言葉が途切れる。選べる文字の羅列を探すように口を開閉させるが、言葉は見つけられなかったのか、涙を拭って言葉の終わりを表した。
「…いなくなった、か。」
「………寂しかっただけなんです。僕は、」
 悪くない。続く音を予想できた気がしたけれど、その音はいくら待ってもきやしなかった。雄介は賢い。子供みたいな駄々も途中で終わらせる。
 いなくなったのはどうしてか。憎しみから雄介が殺してしまった? 別の誰かが連れ去った? 知る術はないけれど、ただ、『消えた』。
「寂しかったから、俺もここに来ることになったのか。」
「………。」
 こくん、と頷く。涙で震えた声は聞かせたくないんだろう。雄介の、プライド的に。
 そうだ。今思えばあれは『呼ばれた』ようなものだ。
 迷うような道が少ないこの田舎町で、音を聞きつけて助けに行ったなんて。世話焼きだって程がある、自分はそんな性格じゃなかった。それに冬であれば帰り道の内に暗くなってしまうこともあるかもしれないけれど、今は夏だ。学校が終わってから日没までかなりの時間があるはずなのに、音の根源を捜し求めて暗くなるまで歩き回った。そこまで同じ場所をぐるぐるしていた覚えは無し、ぐるぐる回れるほどの道がこんな田舎町にあったりしない。ついでにそこまで歩く程の距離であれば音なんて聞こえない。そして場所自体は遠くも近くもない場所にある。近いと言えば嘘になるだろうが、無人であるにも関わらず保健室のおばちゃん先生がすぐさま納得してくれるような、遠くなく、存在感のある場所。
 何の違和感も持たなかったのも、人外の成せる業ということだろうか。いや、口が裂けても本人には言わないけれど。
「人と話して、話したら、その人がいなくなるってわかったところで。もう、兄さんでも引き込んでやろうかと思ったんです。」
「………。」
 頭に鳴り響く憎らしい声。そして、関わった人間が消えていく力。もし願って叶うなら、兄を消してしまえと願いましょう。
 短絡的。直結的。それでも、自分が思う中では一番"人間らしい"。目の前に居る雄介は、得たいの知れない存在なんかじゃない。
「話したところで、いつかは消える。どうせ、寂しさが埋まったりしないなら。それなら。」
「兄貴に復讐してやろうって?」
「………。でも。」
 頷くのか俯くのか、どちらかはいまいちわからない微妙な仕草の後。
「そんなとき、京太郎くんが、いた、から。」
 相変わらず目つきの悪い双眸と、周りより一つ飛びぬけた身長。気だるげな仕草や声。いくら経ってたって、記憶が抜け落ちてたって、京太郎だってすぐにわかった。



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