Ghost Apple 46

「来るとか、来ないとか、関わらず。僕はきっと、君を待っていたから。」
「………へぇ。」
 嬉しいこと言ってくれるね。そう、小さく呟く。その言葉に嘲笑のような意味を含ませるつもりはなかったが、雄介には違う捉え方をされてしまったらしい。またも顔を下にむけてしまった雄介の頭に、手を置く。
 それから、一呼吸置いて。
「…俺が"行方不明"になっても、いつかお前の傍から消えちまうのかな。」
「………。」
「お前が話して来た人たちみたいに、お前も知らないどっかに行っちゃうのかな。」
 ぼんやりと、空を見つめる。
 自分をちっぽけな思いにさせる青空は、時間の概念等消すように綺麗な空色を映していた。雲ひとつない。
「…なんで、行方不明になる気満々なんですか。」
「なんでだろ。」
「同情ですか。哀れみですか。」
「そんなんじゃねぇのはわかってんだろ。」
「………はい。」
 ですが。言い募ろうとする雄介の唇に、人差し指をあてる。それ以上の言葉は、京太郎にはいらない。
「同情じゃない。哀れみでもない。他にぴったりな言葉があるかはわからない。」
 俺バカだから。
「でも、言葉は見つけらんないけど、俺はお前といたいよ。話していたい。」
 真摯な京太郎の瞳に、雄介は気圧されるように目を閉じた。心の中から出すべき気持ちを、選ぶように。
「…男相手に気持ち悪かったか。」
「そんなことないですよ。」
「じゃ、嬉しい?」
「………嬉しいです。」
 申し訳無さそうに、そう呟く。きっと彼はまだ、我が侭になりきれていない。殺してやりたいなんて言葉をぶつけたって、自分が京太郎の身に何か起こすことを理解し、そしてはばかっている。
「どうしますか、君がこれから僕も知らない場所に消えていったら。」
「別にいいよ。少しでもお前といられるんなら。」
「…そんな気持ちも、僕が君を呼んだせいだとしたら。」
「………。」
「僕が、君を呪ったせいだとしたら。」
 雄介の言葉に、悲しげな笑みを浮かべる。こんな表情しかできない、そんな言葉は。
「それでもいいよ。」
「どうして。」
「呪いがなくてもきっと、"京太郎"はそう言うだろうから。」

 自分から記憶を消して行ったおかげで、消えてしまった"京太郎"の人格は。
 きっと、雄介に呼ばれても、呼ばれなくても。"京太郎"は、雄介の傍に行けるならどんなことも受け入れた。

 京太郎の意思なんて関係なくても、甘受できたはずだから。

「行方不明になりたいって人間は、俺以外にいた?」
「…それは初めてですけど。」
「だったら大丈夫。呪いなんて関係してない、これは俺の気持ちだよ。」
 雄介は、黙り込む。もらえるものは貰っておけばいいのに、突っぱねたがるのはどうしてなのか。



←前 次→

戻る
inserted by FC2 system