Ghost Apple 47

「夢だよ。」
「え?」
「決して終わらない夢。俺が向かうのは多分、そんな感じ。」
「どういうことですか。」
 怪訝な表情をする雄介に、にやりと、いやな笑いをする。
「俺はどういうわけか、日暮雄介と会ったんだ。呼ばれたとか、呪いとか、人を引き込むとか知らない。」
「京太郎くん、」
「死人だとか、幽霊だとか、行方不明だとか、知らない。そんなこと聞いてない。」
 子供みたいに、耳を塞ぐ仕草を見せ付ける。実際に聞こえなくなったりはしない。
「昔の友達と出会ったから、ここへ来た。昔の友達と一緒にいたいと思ったから、ここにいる。」
 人より長い足を地につけて、立ち上がる。しばらくの間、硬い階段の上に腰を下ろしていたから、少し痛みが体を襲ったけれど。そんなことは見せないように、目の前の彼を安心させるための笑顔を顔に貼り付けて。
「昔、大事な約束をした友達がここにいるから、俺は、ここにいる。」
 両手を広げ、雄介のほうへと向いた。

「外には連れ出せなかったけど、一緒にいよう。それだったら、少しの間でも、寂しくないだろ?」

「………。」
 呆けた雄介の顔は、瞳は。徐々に盛り上がってくる涙を拭いきれずに、その頬へと伝い落とした。その顔は、その涙は、京太郎の単純な思いを受け入れてくれることを表す。京太郎にとって、それだけで嬉しいものだった。
「少しの間しか繋ぎきれないかもしれないけど。」
「いい、ですよ。」
「ごめんな、俺は7年もお前に繋いでもらったのに。」
「いいです。」
 雄介の腕を引っ張って、自分の肩へと抱き寄せる。両親とも関わってこなかった京太郎の、精一杯の好意的な表現だった。 「少しでも、君といられるなら。もう、いいです。」
「ならよかった。」
 身長差を感じさせるこの体勢で、涙に濡れる制服を思いながら。
「ごめんなさい。」
「ごめんはいらない。俺が勝手にやってることだから。」
「じゃあ、」
 涙どころか雄介の声までも吸い取ってしまうような、ブレザーの制服を思いながら。


「ありがとう。」



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